紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  論文の紹介

杉浦俊彦(2006) 地球温暖化が果樹栽培に与える影響の現状と対策.

              農業技術 61巻3号: 107-112.

杉浦俊彦・横沢正幸(2004) 平均気温の変動から推定したリンゴおよびウンシュウミカンの栽培環 境に対する地球温暖化の影響. 

               園芸学雑誌 73巻1号: 72-78.

 2007年に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第1作業部会および第2作業部会からそれぞれ第4次評価報告書が公表されたが、第3次評価報告書よりも地球温暖化が一層明確になっており、温暖化の程度が更に進むであろうことが明らかにされた。地球温暖化に対しては、(1)その予測と影響についての精度を上げるとともに、予測対象範囲を広げていくこと、(2)温室効果ガスの排出量を削減していくこと、(3)温暖化に対する影響軽減対策を講じていくことが重要となっている。

 今回取り上げた標記の2編の論文は、農業環境技術研究所の研究によって気象庁の観測データや地球温暖化の下での日本各地の温度が10km×10kmのメッシュ図を用いて推定できるようになったことと、果樹研究所でウンシュウミカンリンゴ適地とその温度範囲(年平均気温)との関係が明らかにされたことが結びつけられて研究成果として発表されたものである。地球温暖化の影響に関する研究は、このように複数部門の共同研究によって一層効果的に進むものと思われる。

 著者ら(2004)は、地球温暖化が果樹栽培に及ぼす影響を分析するに当たって、リンゴ、ウンシュウミカンなどの果樹栽培は気候条件への依存性が高く、このために栽培適地が分化していること、永年作物であるために栽培地の移動が困難であることを述べている。したがって、地球温暖化のこれら果樹栽培への影響を事前に予測できれば、その対策に役立つ。

 リンゴおよびウンシュウミカンの栽培に適した年平均気温は、前者では6〜14℃(最も適しているのは7〜13℃)、後者では15〜18℃である。本論文は、第1作業部会第3次報告書の予測を使って推定しているが、2060年代にはリンゴ東北地方中部まで栽培しにくくなり、東北地方北部では暖地リンゴのみが栽培でき、一方、北海道では殆どの地域で栽培しやすくなるという。ウンシュウミカンは、現在の九州から静岡県にかけての太平洋沿岸にある主産地の殆どで2060年代には栽培しにくくなる可能性が示された。新たに栽培可能となる地域は、西南暖地内陸部、北陸地方までの日本海沿岸部、東北地方南部の沿岸まで可能になると推定された。

 最近の高温気味の気象がウンシュウミカンなどの早生種に及ぼす影響が調査されているが、晩夏からの高温により、着色遅延・不良、秋季の高温傾向により、浮皮、水腐れ症、腐敗果などの生理障害や貯蔵性の低下が問題となる。また、病害虫が発生しやすくなることも指摘されている。一方、果実への寒害の減少や、開花から収穫期間が伸びたために、果実肥大が促進されるなどのメリットもあることが示されている(杉浦、2006)。著者らは、地球温暖化は今世紀半ばまでに、わが国のリンゴとウンシュウミカンの栽培環境を大きく変化させる可能性を示した。一方、地球温暖化の影響を軽減するためには、新品種の開発、品種の見直し、気象変動に対応した生育予測が重要となるとしている。

 ところで、紀伊半島は、ウンシュウミカンの一大産地であり、地球温暖化にどのように対応していくかを戦略的に考え、対策を実施していく必要がある。年平均気温が3℃上がるとすると、紀伊半島沿岸部は現在の南西諸島北部の気温に相当するようになると推定される。

 沖縄本島北部の「青切りみかん(ウンシュウミカン)」は露地栽培され、わが国で最も早く8月に出荷されているのを見ると、もし、年平均気温が3℃程度上昇しても、紀伊半島沿岸部でウンシュウミカンが栽培できなくなることはないと思われる(ただし、着色不良などの問題は生じる)。しかし、現在沖縄で栽培されているウンシュウミカンと紀伊半島で栽培されているウンシュウミカンでは品種が異なり、前者の方が耐暑性が強いと考えられる。地球温暖化が紀伊半島のウンシュウミカンに及ぼす影響は、本論文の指摘するように大きいであろう。

 そのような場合に、紀伊半島の内陸の標高の比較的高い丘陵地帯にウンシュウミカンの産地が移動することも考えられる。更に、最近、生産が増加している中晩柑類は、ウンシュウミカンよりも地球温暖化の影響が出にくいと考えられるが、このことについて、更に研究を進めていく必要があるだろう。タンカン類など台湾から南西諸島にかけて栽培されている品種についても、栽培の可能性を研究していく必要があろう。いずれにせよ、地球温暖化への対策として、耐暑性の強い柑橘類の導入高温耐性品種の育成標高の高い場所への圃場の移動などが必要である。更に、東南アジアや南西諸島で防除対策に難渋しているミカンキジラミの媒介するカンキツ・グリーニング病が、温暖化の過程で苗木とともに紀伊半島に持ち込まれると、甚大な被害が生じることになるので厳重な注意が必要である。
(2007.4.24 M.M.)

関係情報:「温暖化の影響と適応策に関する資料集」が農研機構・果樹研究所のホームページに掲載されました。
        上記の論文も全文が掲載されていますのでご覧下さい。]

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